琉球新報連載エッセイ 6/24

妻の直感

「あれだけ沢山の仕事を抱えた天野先生が、いきなり宮古島に移住するなんて、あのときは本当に驚きました。」

先日、新宿の居酒屋で、友人で大手のCDレーベルのプロデューサーS氏に再会した時に言われた。確かに、今考えると、三年半前に生まれ育った東京を離れて移住したのは大胆な決断だったと思う。

それを言い出したのは直感の鋭い妻だ。初めてこの島に来た八年前、いきなり、「もう私は東京には帰らないから。あなた一人で帰って。」ときた。

美しい自然、温暖な気候、穏やかな風土。しかし、五年前に私達が決断した要因はそれだけではない。底抜けに優しい島の人々に囲まれて生活できたら、どんなに愉しいだろう思ったことが大きい。

この環境で育ったのだから素直で心根の優しい素晴らしい子供達ばかりだ。すっと良い師弟関係を創ることができ、厳しいレッスンにも一生懸命応えてくれる。本人が愉しさを感じると、すごい集中力を発揮する。合奏になれば私の指揮に食いついて音楽の神髄に迫ろうとする。

一人一人が奏でなければ合奏にならない。しかし、合奏があるからこそ、自分の音が、つまり、自分自身がそこに存在することを確認できるのだ。音楽の歓びが合奏にあるように、生きる歓びは人との繋がりの中にある。彼らはこの価値観を自然に会得している。私達は、彼らの成長する姿を通して、この島に住まわせてもらっている感謝を表現することができる。彼らに心から「ありがとう」と言いたい。

島の「優しさ」を基本としたこの価値観こそが、今のこの国の状況を良い方向に導くのだと思う。そのことを、彼らは、合奏を通じて沖縄と東京のステージで表現するのだ。

宮古島市ジュニアオーケストラは七月二三日宮古島マティダ市民劇場、二四日沖縄平和祈念堂、二六日東京武蔵野市民文化会館にて公演する。沖縄では平和の祈りを込め、東京の音楽専用ホールのステージの上でその響きを体験し、日頃なじみのないパイプオルガンやハープと共演する。

素晴らしいこの島で仕事ができて私達は幸せだ。妻の直感は、また正しかったようだ。


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