2010年6月アーカイブ

琉球新報連載エッセイ 6/24

妻の直感

「あれだけ沢山の仕事を抱えた天野先生が、いきなり宮古島に移住するなんて、あのときは本当に驚きました。」

先日、新宿の居酒屋で、友人で大手のCDレーベルのプロデューサーS氏に再会した時に言われた。確かに、今考えると、三年半前に生まれ育った東京を離れて移住したのは大胆な決断だったと思う。

それを言い出したのは直感の鋭い妻だ。初めてこの島に来た八年前、いきなり、「もう私は東京には帰らないから。あなた一人で帰って。」ときた。

美しい自然、温暖な気候、穏やかな風土。しかし、五年前に私達が決断した要因はそれだけではない。底抜けに優しい島の人々に囲まれて生活できたら、どんなに愉しいだろう思ったことが大きい。

この環境で育ったのだから素直で心根の優しい素晴らしい子供達ばかりだ。すっと良い師弟関係を創ることができ、厳しいレッスンにも一生懸命応えてくれる。本人が愉しさを感じると、すごい集中力を発揮する。合奏になれば私の指揮に食いついて音楽の神髄に迫ろうとする。

一人一人が奏でなければ合奏にならない。しかし、合奏があるからこそ、自分の音が、つまり、自分自身がそこに存在することを確認できるのだ。音楽の歓びが合奏にあるように、生きる歓びは人との繋がりの中にある。彼らはこの価値観を自然に会得している。私達は、彼らの成長する姿を通して、この島に住まわせてもらっている感謝を表現することができる。彼らに心から「ありがとう」と言いたい。

島の「優しさ」を基本としたこの価値観こそが、今のこの国の状況を良い方向に導くのだと思う。そのことを、彼らは、合奏を通じて沖縄と東京のステージで表現するのだ。

宮古島市ジュニアオーケストラは七月二三日宮古島マティダ市民劇場、二四日沖縄平和祈念堂、二六日東京武蔵野市民文化会館にて公演する。沖縄では平和の祈りを込め、東京の音楽専用ホールのステージの上でその響きを体験し、日頃なじみのないパイプオルガンやハープと共演する。

素晴らしいこの島で仕事ができて私達は幸せだ。妻の直感は、また正しかったようだ。


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琉球新報連載エッセイ 6/14

優しさの力

東京から宮古島に移住して三年になるが、この島では人の優しさを感じることが多い。

今では島で生まれ育った友人も沢山いる。職業も、会社員、自営、会社経営、教員、公務員など様々だ。皆生きる力が強く、仕事でも遊びでもとても敵わない。その上、とにかく優しい。助け合い精神が色濃く、人との繋がりを大切にするこの島で生きてきた彼らは、困っている人がいると放っておかない。この夏、東京沖縄ツアーを催す宮古島市ジュニアオーケストラも、彼らをはじめ数多くの島人に援助してもらっている。

ジュニアオケのメンバーはそういった環境の中で育った子供達であるから、「優しさ」の持つ力をよく知っているようだ。「優しさ」が音楽をより深く彩るのだ。

音楽の表現の基本は、音の強弱、速さの緩急、音色の使い分けなどで組み立てられる理性的なものだ。しかし上級になると、演奏中の瞬間瞬間における、メンバー間の言葉にできないやりとりが重要になる。指揮者の私が手の動きで示したアイディアに、彼らのリーダーが応え判断し、演奏と体の動きや目配せなどで示し、皆が応じる。メンバー全員の感性が心に響く演奏を創るのだ。この「場」の深い共感こそ、プロ・アマを問わず、音楽の「神髄」である。

人々が共感し愛し合う気持ち、つまり「優しさ」が、音楽の「深さ」を生む。そしてその音楽の「深さ」への感動、つまり生きる歓びが、さらなる「優しさ」を育てる。これが私達の音楽教育の目的なのだ。心地良い緊張感のある舞台の上で、しっかり強い気持ちを持ちながら、嫋やな心遣いのできる彼らだからこそ、すっとこの「神髄」に触れることができるのだ。

何度もこのコラムで述べたように、沖縄には、「優しさ」に象徴される日本の素晴らしい価値観が色濃く残っており、今それが東京でも見直されている。島から羽ばたいていく子供達にも、それに誇りを持って大切にしてもらいたい。そして、彼らが一人前になって島に帰って来た時に、この島の宝が今と変わらずあるように、私達が守っていかなければならないと思われる。

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