琉球新報連載エッセイ 5/30

心の拠り所

宮古島市ジュニアオーケストラの夏のツアーの準備に東京に行った。三年前まで生まれてから四七年間住んでいた土地なのに、一週間居るだけで疲れるのには我ながら呆れてしまう。同時に、これから島を巣立ってここで暮らす子供達のことを考えた。彼らにとって未だ知らぬ価値観との出会いでもある。

演奏会の協力の為に集まってもらった宮古島出身の郷友会の皆さんに、そのことを聴いてみた。皆、移り住んだ当初は、効率や合理性を追求した東京の価値観にとまどった由。その中の一人が言った。「僕の心の中の九割は東京だけど、一割は宮古だ。その一割があるからがんばれる。」自分たちの心を大切しながら、東京をも受け入れる懐の深さがあったからこそ、今の彼らがあるのだろう。

一方、東京から宮古島に移り住んだ私達は、人間性や心を大切にするその生き方に、むしろ本来の居場所に帰って生活している実感がある。明治以降の急速な欧米化により失われていった日本人の心の拠り所が、沖縄にはしっかり残っていたのだと思われる。東京に移住した郷友会の皆さんも宮古島に移住した私達も、両方を受け入れて生きているのだ。

島の子供達も、彼の地でまずこの価値観の多様性を理解し、自分のアイデンティティーに自信を持って、選んだ道を進んでほしい。そして、私達の世代では別々のものだった二つの価値観が、彼らの力で止揚されて、新しい幸せな生き方が生み出されてゆくことと思われる。「東京での友人に『君を見ていると宮古島は素敵な所に違いない』と言われるようになってほしい。」と話している。

音楽は、まさにそのことを表現する為の道具なのだ。演奏会の時には、舞台に立つ者の間や舞台と客席の間に、無意識の心の絆が生まれる。あらゆる芸術の中で、「演奏」するその短い時間を皆が共有する「音楽」だけの醍醐味だ。

「新しい価値観」と「音楽の絆」。彼らこそ本来の意味でのグローバリゼーションの担い手かもしれない。宮古の子、頑張れ。今回の東京沖縄ツアーはその第一歩だ!


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