2010年2月アーカイブ

琉球新報連載エッセイ 2/24

無限の可能性


「君達には『無限の可能性』があり、今本気になったら何にでもなれる」と、東京で生徒達に話してきた。宮古島でも演奏したり指導したりする合間に子供達に言い続けている。そして、本気になる為には見識を広め意欲が育つような環境創りが重要だ。

宮古高校音楽主任だったN先生に初めてお会いしたのは五年前だ。十五丁のバイオリンをお持ちで「授業で皆に体験させるから、指導に来てくれ」と請われた。授業でバイオリンを体験できる高校など東京でもほとんど無いので本当に感動した。音楽を広める環境創りの為には労を惜しまない方で、宮古島市ジュニアオーケストラ設立時から、団長として大きな存在である。そして氏の永年の努力と薫陶を受けた後輩の先生方のお力で宮古島の中高吹奏楽部は県内トップレベルであり、その暖かく子供達の為の熱意に満ちている人の輪に囲まれてジュニアオケも育っている。

三年半前に市内の二つの小学校でジュニアオケの前身となるクラブ活動を始める時に、両校の校長が、「子供達の為ですから」と言いながら笑顔で全面的に支援して下さったことも大きな感動であった。

こうして設立三年目となる今年の夏休みにジュニアオケの皆で東京に行く計画をしている。素晴らしい音響をステージの上で体験する為に「シューボックス型」のホールでコンサートを催し、同世代の音楽仲間と共演し交流を深める。翌日は皆で東京大学を見学して教授の話を聞いたり、最大級の蔵書数である都立中央図書館に行ったり、一流のオーケストラの演奏会を聴いたりして「東京」を体験する。

一方、宮古島に人を呼びたい。今年は日本弦楽指導者協会の補助を受けて、宮古島に現役の音楽大学の准教授を招き、音楽大学に行くのはどういうことか、どういう将来の選択肢があるのかなどの講演会と演奏会を催す予定だ。

距離的には首都東京から遠く離れた宮古島。しかし、広い視野を持ち努力を惜しまない多くの大人達の力で、子供達は距離を感じずに見識を広めることができる。生まれ持った「無限の可能性」を活かすことができるのだ。


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琉球新報連載エッセイ2月11日付

「聴く心」を育てる


休暇の度に宮古島に通っていた頃、当時の市長から「宮古島にジュニアオーケストラを創りたい」との話があった。東京で小規模な合奏団から三千人の大オーケストラまで指導してきた経験を生かしてお役にたてるならと、お引き受けした。そしてそれが宮古島に移住するきっかけとなった。

まず、手始めに妻と共に宮古島市内保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校・養護学校のべ二十五カ所で文化庁の芸術家派遣事業やボランティアでバイオリンの演奏をしたり、授業や課外活動として指導した

生まれたときに神様からもらった直感をまだ大切にしている子供達こそ、曲の好き嫌いがはっきりしているのだから、彼らに聴いてもらう時は目を見ながら演奏するようにしている。この曲は楽しかったかな、次はもっと明るい曲を弾こうかな、などと彼らの嗜好を探るのだ。生まれた風土によって好きな曲に違いがあるし、そのときの気分でも聴きたい曲は変わるだろう。それを感じて私達の弾いた曲が彼らの気持ちとぴったり合った瞬間は最高だ。演奏の合間には曲の背景などもわかりやすく説明して彼らの想像力をふくらます。こうして彼らの「聴く心」を育てる。

十数年前、世界的なチェロ奏者林峰男さんが私達の生徒のオーケストラの演奏会で協奏曲を弾くために直前の合宿に参加してくれたときのこと。練習後子供達のために一曲弾いてくれることになったのだが、彼はなんと二十世紀の作曲家コダーイの無伴奏ソナタを弾き出した。小学低学年のいたずら盛りをはじめ七十名の子供達がかぶりつきで体育座りをしている前である。初めて聴く難解な現代音楽なのに子供達は真剣で最後まで身じろぎ一つせず目を丸くして聴き入っていた。子供達は本当に正直な聴衆である。彼らの「聴く心」が育つどうかは演奏する側の問題なのだ。

「聴く心」とは言い換えれば子供達とのコミュニュケーションのことである。大人がしっかりと「聴いてもらう」内容を持っていて、子供の人格を尊重し、その心を「聴く」ことができれば、彼らの中に「聴く心」が芽生えるのだ。

 

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2011年4月

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