琉球新報連載エッセイ 1月14日付

「沖縄時間」の時代

日本弦楽指導者協会沖縄県支部長  天野 誠


 東京で生まれ育ち二五年間バイオリンの演奏・指導を生業とした後、
美しい宮古島に移住し妻と共に子供たちに教え始めて三年、
この連載を始めるにあたってこの間の驚きと感動を記そう。

 バイオリンは綺麗な音が出るまでがまず大変である。
宮古の子達も最初こそ「自分にも本当にできるかな?」の顔。
ところが、一旦「楽しい!」「好き!」と思った途端、素晴らしい集中力を発揮するのだ。
もちろんレッスンは山あり谷ありで、子供達は泣くこともある。
私も厳しいかもしれないが、どちらかというと自分自身のことが悔しい様子である。
そしてまったくへこたれない。
私達大人を心底信頼し、とことん慕い、ついてきてくれる。
その美しい心とそこから生まれる高い能力によって、
僅か三年で音大の入試曲であるロマン派の協奏曲を弾きこなす子が四人も育ち、
また、昨年夏宮古と那覇でのコンサートで、チャイコフスキー作曲の弦楽合奏の難曲を
高い水準で演奏することができ、その感動を聴衆と共に分かち合うことができきた。
東京では有り得なかったことだ。

 当初はいずれ東京など大都会に旅立っていく
中高生に強い気持ちを育てるべく、

「それじゃあ『東京』ではやっていけないぞ。」

と厳しく指導することもあった。
しかし子供達の心の深い優しさに触れていくうちに言葉を付け加えるようになった。
「君の中にある『沖縄』的な素晴らしさ、こころねと
そこから生まれるその音色をこれからも大切にしなさい。
『東京』に行ってそれを皆に誇りなさい。」子供達が私達を成長させてくれたのだ。

 詩人・哲学者の山尾三省は、九九年の琉球大学での集中講義で、
この感動を端的に述べてくれている。
曰く、西欧技術文明に代表される一時も立ち止まらない
「進歩する文明の時間」(=東京の時間)と、
大自然の時の流れのように人の心を大切にする
「循環(回帰)する時間」(=沖縄の時間)という二つの時間の相があり、
これらの調和が、この国の次世代のもっとも重要なテーマになるだろうと。

子供達を「沖縄」で育てて、その素晴らしさを「東京」に輸出する時代が来たのだ。


o0572060210387989367.jpg